ふんわりした生活

本を読んだり仕事でやってみたことなどの日常から、ふんわりと気づきなどを書いていきます

職人気質の「見て覚えろ」が妥当だった時代があったんだろう

タイトルの通りなんです。

そういう時代があったという事実があって、いまは違うんだよな、ということです。

発端

ニュースアプリさんが以下の記事を教えてくれたので、堀江さんの寿司職人に関するツイートとその関連記事まで遡って楽しく読ませていただきました。

www.recomtank.com

  • 指導力不足は職人気質ではない
  • マニュアルで効率的に教育しよう

ものすごく雑にまとめるとこうなるでしょう。

堀江さんのツイート

堀江さんのツイートってこういうことですよね。

  • 寿司職人が何年も修行するのは非効率である
  • 効率的に学ぶ場所も仕組みも既に存在している
  • 寿司職人として成功するかはスキルの活用次第である

さきほどのブログ記事と大体同じような趣旨だと思います。

で、ふと思ったわけです。 どちらも「現代においては」が省略されていて、それは文脈から読み取ることができるということなんだと思います。 そしてそのことはツイートを読んでいる方も念頭に置いていると思うんです。

「見て覚える」必然性って

もしも本当に「見て覚えろ」っていう職人さんが(いるのかな?)いたとして、その必然性があるかどうかを考えてみました。 すると、2016年現在において、それは必然性が感じられませんでした。

なぜなら、

  • 手順はマニュアルやテキストで学ぶことができる
  • 所作は動画などで学ぶことができる
  • 情報はウェブなどを駆使して収集することができる

からです。

これらに共通しているのは「識字能力」と「読解能力」でしょう。 いずれも義務教育の範囲で「ある程度」まで指導されて成長してきた現代人にはいずれも備わっていることでしょう。

一方、どのくらいむかしから言われていることなのか「飯炊き3年、握り8年」というやつですが、どのくらいむかしの話なんでしょうね。 口伝で伝わっているのか、それとも何かでインタビューした内容が広まったのか。 いずれにしてもここ100年以内なのではないかと思います。

明治大正の頃を考える

調べてみると握り寿司が普及したのが明治の後半のようなので(Wikipedia調べなので本当かどうか不安)、少なくともこれより後にできた考え方、あるいは広まった考え方だと思われます。

この頃の日本においては識字率も現代ほど高くなかったそうです。

http://home.hiroshima-u.ac.jp/cice/wp-content/uploads/2014/02/15-1-04.pdf

むかしの情報なので本当かどうかはわかりませんが、少なくともバンバン紙に字を書いてマニュアルを配布 するということはしてなかったでしょう。

弟子入りしてくる方も、職人の方も、双方ともにテキストを読んでニュアンスを理解したり、どんなことに注意して握るべきかわかるように書いたりというのが難しかったのかもしれません。いまよりもずっと若い頃に弟子入りしていたでしょうし。

そうなると、わかりにくい言葉を口で言って伝えるより「やってみるから見てて」のほうがわかりやすかったのではないでしょうか。そしてお互いにそれが職人にとっても教えられるほうにとっても、うまくいったのでしょう。 当然、このような方法を採用すると状況に応じて職人の方も所作を変えてしまうので標準的な所作に絞り込むまでにも時間がかかります。 さらに材料も貴重だったでしょうから、何度も練習でご飯を炊いたりということも見習いの方の給料ではムリでしょう。

結果的に「彼、一人前になったよね」というのが統計的に10年くらいじゃね?ということで生まれた考え方というかなのではないかと思うわけです。

他の分野における職人気質

他にも職人が活躍している分野はたくさんあります。 いずれも現時点では明文化が難しいものだったりするわけでしょう。 ただ、難しいだけでそこへ明文化するために費用を投じれば明文化することはできるでしょう。そうなれば手順や所作については効率的に学ぶことができるようになります。

だからこそ、そうした専門分野を教育、指導するための専門学校があったりするわけですし。もちろん向き不向きもありますので、全員が全員職人になれるとは限りませんが。

どの程度の規模があれば明文化されるか、と考えると海外でも高い評価の寿司は市場からの要求が高いと考えられるので明文化の対象になりやすいと考えられます。 そういったものが他にもあれば、職人の方が磨いてきた手順、所作はマニュアル化されますし、その結果として効率的に学んだ職人がさらなる高みを目指すというのはあり得る話でしょう。

そういったことを踏まえた結果、「センス」という話になるのは自然だと思います。 ある程度の費用をかければ効率的にノウハウを習得することができるということは、同じ土俵に立つことができる人数が増えます。 それは競争が激しくなるということにつながるので、最終的に差が出るのは「どういった寿司を演出するか」とか「どういった場所で提供するか」とかになるからです。

指導力を向上するには

もし指導力を向上する必要があるのであれば、おそらくそれは指導する立場の人間に以下の経験が不足しているためです。

  1. 「自分がしたこと」を振り返る
  2. 「うまくいったこと」を振り返る
  3. 「うまくいかなかったこと」を振り返る
  4. 「振り返った経験」を何かに文字など形あるもので残す

ん?なんだか小学校でやってるような気がしますが…いや、面倒ですから普段の生活でこれを地道に繰り返している方はそういらっしゃらないでしょう。

実際、むかしの寿司職人の方も1〜3は毎日感じていたと思うので頭の中にはあったはずです。しかし現代と違うのは4です。 いまは紙でなくてもデジタルに残すことができます。 写真でも動画でもいいですし、テキストももちろんです。 なんなら組み合わせて残すこともできますよね。 これらの経験を1セットにして回数こなしたほうが熟練してきますので、効率的でかつ素早く上達できます。 仕事として集中して行うのであれば、さらにその効果は期待できるでしょう。

こうしたことを、ちょっと怖いと感じる人も多いでしょう。だって、自分が数年かけてきたことをまとめると意外とボリュームが小さくて、後輩たちはあっという間にそれらを習得してあなたの横をすり抜けていくからです。

でも考えてみてください。 あなたにもチャンスはあります。だって、後輩たちはあなたがしてきたことを効率的に学んだだけです。あなたも先輩や後輩の残した成果から効率的に学ぶことで同じ土俵にいつでも戻ることができます。 そして、成否を分けるのはアイデアを「やる」か「やらない」かだけになってしまいます。

最後に

とはいえ、イタチごっこですよね…新しいことをやっても明文化されれば同じことです。あっという間にだれかの経験が消費される時代になりました。

「見て覚える」というのがレジャーになる日も近いのではないかと思います。 ちょっと面白いかもしれません。 だれかが寡黙な職人の役を演じて、お客さんが見習いとして「見て覚えて」から実際にやるという体験を販売する、というような。ある意味それに近いのがキッザニアかな?