アプリ開発の目線でみたウィルスが体で増える流れ
先日、近所の病院へ行ってインフルエンザ予防接種の予約をしようと思ったのですが。 かなり一杯で来月になりそうです。
まだまだ台風が来たりなんかしてちょっとだけ夏の余韻が残ってる10月後半ですが、ウィルス対策の季節が到来したなーと思っております。 家事をこなしてるとそうしたことが頭をよぎったので自分が勝手にすっきりしたくてエントリしました。
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一応前置きしておきますが、バイオの専門家でもありませんし、医療関係者でもありません。 罹患したらお医者さんのいうことをよく聞きましょう。
なぜウィルスの話
わたしは大学の頃、バイオの研究をしてる学科にいました。 理学部でなくて工学部で、遺伝子情報を扱う研究室にいました。
卒論も遺伝子の解析でして、まったくもってIT業界に興味も何もありませんでした。 ところが、あるとき気づいたのです。 アプリケーションが作られる流れと、遺伝情報が生物を構成する最小構成の物質である「タンパク質」を作る流れがそっくりだということを。
そんなに就職先がなかった頃(氷河期?だったかな)で、情報システムとかまったくわからなかったのですが、最初の研修の頃にこの相似性に気づいてからは身近なものに感じるようになったのを今でも覚えています。
そういうわけで、IT業界にいたのにウィルスの話をしたいと思います。
ウィルスは死なない
ものすごく長い前置きですみませんでした。
この時期になるとウィルスを殺すとかいう話が降って湧いたように出てきます。 しかし、この分野のことを少しでも勉強していたらわかるのですが、ウィルスは死んだりしません。
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なぜ死なないのか?不死身なの?
違います。ウィルスは元々生きてないのです。 つまり、生き物、生物ではありません。
だいたいこういうことを言うと、「えっ意味わかんないんだけどw」と言われます。 妻にもよく言われます。
生物の定義としては次のとおりだったと記憶してます(もう10年以上前の話なのでうろ覚え)。
- 自分と他を隔てる膜を持っている
- 自分で栄養を取る
- 自分で増える(増殖する)
ウィルスは1つ目の条件を満たすのですが、一切代謝をしませんし自分で増えることができません。
「ん?」と思われた方は素晴らしいです。 では、なぜウィルス体の中で増えてしまうのでしょうか?
ウィルスはどうやって増えるのか?
ウィルスは殻の中にRNAと呼ばれる種類の遺伝情報を入れただけのもので、どちらかというと物質に近いものです。 もちろん、意志もありませんし増えそうな要素は遺伝情報を持っているということくらいです。
ではどうやって増えるのかというと、くっついた生物が生きていく仕組みに乗っかって自分を増やさせるという方法で増えるのです。
イメージしてもらうとすると、「勝手に他人のやってる工場にもぐりこんで、自分用のものを製造ラインで作ってもらう」という感じでしょう。
ウィルスってこんな感じのものです。汚い絵ですみません…
そしてこういう流れで増えていきます。
まず、ふわふわと漂っていると、偶然にも生物の細胞にくっつくことになりました。
そうすると殻が緩んで細胞膜に差し込んだ形になります。差し込んでいるので遺伝情報であるRNAが細胞内にチューっと注入されてしまいます。
注入されたRNAは偶然にも細胞内を漂っていた逆転写酵素に出会ってDNAを作ってもらいます。 逆転写酵素もRNAにコーディングされているので、ちょっと省略しちゃってますがお許しください。
逆転写によって作られたウィルスのDNA(ソースコード)はRNA合成酵素に出会ってメッセンジャーRNAとトランスファーRNAになります。 ここが恐ろしいところで、生物の細胞内にある遺伝情報をソースにしてタンパク質をビルドする流れはソースコードがなんであってもいい(注1)のです。
そうやって作られたトランスファーRNAはタンパク質の材料であるアミノ酸を連れてきます。そしてメッセンジャーRNAはタンパク質合成酵素というやつと偶然にも出会うことになります。 タンパク質合成酵素は順番にトランスファーRNAが連れてくるアミノ酸を繋いでいって、アミノ酸のながーい鎖をつくります。
こうして長い鎖は自分の帯びている電気的な性質でクルクルとまとまり始めます。 ウィルスの殻になったり、逆転写酵素になったりします。
このとき、ウィルスの遺伝情報をもつRNAと偶然出会うとウィルスの形になります。 やった!偶然がたくさん重なりましたが、まんまとウィルスが完成しました!
そして殻と同じように作ってもらっていた細胞膜を壊す酵素の働きによって生物の細胞は風船に針を刺したようにパンっと破裂します。 結果として、同じようにまんまと細胞内の仕組みを利用して増殖させてもらったウィルスは大量に細胞の外へ流れ出ていきます。
あとは1番目に戻る、ということを繰り返します。
普段やってる医療行為ってどうなの
よく妻に聞かれるような気がする質問を2つ挙げておきました。
Q1. インフルエンザ予防接種はどこに効くのか?
- ウィルスが細胞膜にくっつく前に体から出て行ってもらうためです。
さきほどの説明でいう1番目、これはウィルスが多ければ多いほどくっつく確率は高まりますよね? だから細胞がウィルスに遭遇する前に追い出すのです。
どうやって追い出すかというと、生物の体の中には異物を認識して外へ追い出す仕組みがあります。これを使うのです。 そのためにはまず異物認識をしてもらわなければなりません。
何を異物とするかというと、以前に出会ったことのある見たことのないやつです。 予防接種では殻の部分だけとか、あるいは少量のウィルスなんかをあえて体内に入れます。 そうすることで、「あいつ異物だ」と認識させます。
異物とわかると、学習したパターンで「抗体」というマーカーが優先的にくっついていくのです。 そうすると、このマーカーめがけて異物を排除する仕組みが一斉に動作しはじめるのです。
毎年インフルエンザの流行が変わるのはよく報道されていますが、それは異物排除システムが認識するための殻の部分が流動的に変化してしまうことを言っているのです。だから、以前見たやつかどうかわからなくなるということになるんです。
Q2. タミフルはどこに効くのか?
こうしたお薬は抗生剤ではありません。
抗生剤は生物が体を構成するためのタンパク質をつくったり遺伝情報を転写するのを邪魔しまくって増殖できないようにする物質のことを言います。 こうすると、数がモノをいうミクロの世界です。 圧倒的に細菌<異物排除システムという構図になります。 細菌はボコボコにされて鼻水や痰になって体外へ排出されます。
インフルエンザの場合でいうと、タミフルは先ほどの説明の5~6番目のあたりで殻がうまく作れないように邪魔をする物質です。 つまりウィルスとしての形をとる数が圧倒的に減ってくるわけです。
そうなってくると、同じようにRNAが作られても細胞内を漂うただの物質にすぎません。 そうしたゴミはRNA分解酵素でバラバラにされます。 また、不要なタンパク質もバラバラにされていきます。
こうしてウィルスの増殖は激減するので数で勝る異物排除システムによって体外へ排出されていきます。
結果的に、インフルエンザという症状は改善するということなのです。
最後に
実行形式が無限に増殖していくイメージをすると、マトリックスを思い出したりしませんか? わたしはしました(ドラゴンボールだとも思いましたけど)
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このエントリを書いていて思い出しましたが、ミクロの世界では数がモノをいうといいましたが、作られすぎたタンパク質や遺伝物質によってその製造ラインが勝手にストップするという仕組みもあります。
メッセンジャーRNAとかは増えすぎるとソースコード(DNA)から転写するのをやめる仕組みが実装されてたと思います。
面白いですよね。
(注1) なんでも良いわけでも実際はありません。エントリポイントがないとコンパイル通りません。